PAGE
TOP

青い空の、血潮の中で

昔、海沿いに住んでいたことがある。とはいえ、よく海にいったわけではない。クラゲといった生き物が怖くて、行けなかったからだ。
 しかし、砂浜も夏は観光客が多く、ゴミもそこそこあり、歩いていて足裏が少々チクチクしたことは覚えている。最近は熱海に行ったが、かつてあったであろう輝きは消えているように思われた。確かどこかに「バブルの頃が懐かしい」と書かれた短冊を見た記憶がある。
 友人と、熱海の夜に海岸沿いを歩いたが、波の音だけが静かに響く。いった時期もあるだろうが、昔は賑やかであったのかもしれない。「夢の跡」というには早いかもしれないが、衰退の臭いを感じなくもない。
 今では、ある地方の小さな町に住んでいるが、海からは遠い。遠いが、山々の景色も悪くない。自然という穏やかさに惹かれるのだろうか。
 ある種の平穏さであるが、一方で自分がどこまで狂っているのかがわからなくなる。何が幻聴であろか。何が幻覚であろうか。見分けなどつかない。
 穏やかであるほど、狂気が湧き出てくる。
 心から溢れる血の海が、足元を赤く染めていく。仰向けになってみれば、小川のせせらぎのようである。青空を飛ぶ白い鳩が見える。降り立つ場所はあるのだろうか。清らかな血の海は、青空を映し、私はその中を歩く。波打つ砂浜。かつては青かった海。あらゆるものを飲み込むうちに血に染まってしまったに違いない。歩いた足跡は、血潮がさらってしまう。誰がここにいたことを知ろうか。
 しかし、私には、その足跡が見える。昔の人たちが歩んだ足跡が見える。果たして、これは幻想か、現実か。単なる統合失調症の症状に過ぎないのか。彼ら、彼女らの笑顔もまた、そうであるのか。
 歩めば歩むほど、血潮が噴き出す。彼ら、彼女ら以外、この痛みがわかるはずもない。この透き通った青い空、鮮血の煌めき、無情なまでの世界。

※当サイトのすべてのコンテンツ(コメントを含む)の無断転載・無断利用を禁止しています。詳しくはこちら。

この記事へのコメント
コメントはまだありません。

コメントを書く